版1ec0-13w00
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焼なましとは、鋼の結晶粒度を調整し、軟らかくする操作で、その目的によって種々な方法があります。いずれの場合も、
①A3又はA3-1変態点以上+50℃に加熱し、完全にオーステナイト化させます。
②Ar1点直下(約700℃)でオーステナイトをパーライトに変態させます。
(1)完全焼なまし
一般的に焼なましと云えば、この完全焼なましのことを云います。変態点以上+50℃
の温度に加熱した後、約25~40℃/h以下の温度で炉冷します。冷やし方は炉冷ですが、室温までゆっくりと冷やす必要はありません。臨界区域(約550℃)位まで炉冷したら、炉から取り出し後が空冷で良いのです。ただし、残留応力を嫌う場合は、400℃位まで徐冷すると良いでしょう。
(2)等温焼なまし
等温冷却を利用する方法です。TA温度から約600℃(S曲線の鼻より高い温度)に保った等温炉に入れ、等温変態が終了した後、取り出して空冷します。この処理は短時間で操作が完了でき、また、炉の循環的な利用も可能です。
(3)球状化焼なまし
パーライト中のセメンタイトを又は網状セメンタイトを球状化させるための焼なましです。球状化の方法には、
①Ac1点直下又は直上の温度に長時間加熱した後、ゆっくり冷やす方法。
②Ac1点の直上まで加熱し、Ar1点直下まで冷却を数回繰返し行う方法。
③簡単に球状化したい場合、また、構造用鋼など球状化がし難い鋼は、一度焼入れを行い、高温(650~700℃)で焼戻しを行うと比較的球状化が容易にできます。
(4)応力除去焼なまし
冷間鍛造や圧延、溶接、鋳造品などの残留応力を除去し、軟化させたり、ひずみを少なくするための処理で、一種の低温焼なましです。加熱温度は鋼の再結晶温度(約450℃)以上、A1変態点以下の温度です。通常は550~650℃が多く用いられています。冷却は徐冷(炉冷)が良いが、450℃以下は空冷でも効果的です。また、焼入変形を少なくするための前処理としての効果もあります。
金属組織について(2)
一般的な熱処理についてお話をしましたので、それらの処理によって生じた金属組織について、前に記述しなかった組織を概略解説しましょう。
スッテダイト
りん化鉄(Fe3P)と含りんオーステナイトの共晶を云います。熱処理では直接関係がありませんので省きましたが、片状黒鉛鋳鉄中の含りん共晶は、このスッテダイトです。また、Pを多く含む炭素鋼にも現れることがあります。
レデブライト
鉄鋼材料を融液から冷却してくると、1148℃でオーステナイトとセメンタイトが同時に晶出します。この共晶をレデブライト又はウエストと呼んでいます。レデブライトのC量は4.3%です。
複炭化物
FeとC、Mo、W、V、Crなど2種類以上の元素が化合してできた金属間化合物を複炭化物と云います。ダイス鋼(SKD)や高速度鋼(SKH)などの高合金鋼に多く存在する炭化物で、M3C、M6C、M23C6などがあります。Mは(FeCr)、(FeMo)など添加した金属元素を表します。
繊維状組織
冷間で加工し塑性変形を与えれば、結晶粒は加工方向に繊維状に伸び、加工度が大きくなると結晶粒は繊維を束ねたような組織にあります。このように加工方向に伸びた組織を繊維状組織と云います。この組織は、伸びた方向と直角方向では強度がかなり違います。このような組織は再結晶温度以上に加熱すれば元に戻ります。
トルースタイト
焼入れによって得られたマルテンサイトは、α鉄に多量のCが固溶したもので、硬くてもろい性質があります。これを粘い性質にするために、Cを吐き出させる必要があります。約400℃に加熱(焼戻し)すると、硬いマルテンサイトからFe3Cの形でCを吐き出します。この組織がトルースタイトです。フェライトとセメンタイトの混合組織で、マルテンサイトに次ぐ硬さです。ばね性もありますが、さびやすいのが欠点です。フランスのトルーストによって発見されました。硬さは400HV程度です。
ソルバイト
この組織もフェライトとセメンタイトの混合組織です。マルテンサイトをトルースタイトよりもさらに高い温度(550~650℃)で焼戻しをすると得られます。Fe3Cがやや粗大化し、トルースタイトよりもさらに凝集した模様を呈します。軟らかくショックに強いため、じん性が要求される機械部品に多用されています。また、窒化や高周波焼入れの前処理として施されます。イギリスのソルビーが命名したもので、硬さは270HV位です。
ベイナイト
オーステナイト化した鋼を焼入れする際、Ar′変態とAr″変態の中間の温度で等温処理すると、得られる独特な組織です。等温処理温度が高い(450~550℃)場合は、黒色の羽毛状(パーライトに近い)の組織が、また、比較的Ms点に近い温度で処理すると、針状(マルテンサイトに近い)の組織となります。羽毛状を上部ベイナイト、針状を下部ベイナイトと云います。いずれのベイナイトも、硬さが同一ならば通常の焼入れ・焼戻し材よりも粘り強い性質を持っています。米国のベインが発見したのでこの名前が付いています。
表面改質熱処理
前述したごとくバルク材の表面も内部も同時に、目的とする特性に変える処理を一般熱処理と呼びましたが、ここでは表面のみを改質する熱処理、特に表面硬化熱処理について概略解説しましょう。
表面硬化の種類
表面硬化処理には物理的硬化法と化学的硬化法の2つがあります。物理的な硬化法は、表面の化学成分を変えることなく、焼入れだけで硬くする方法です。高周波焼入れ、炎焼入れ、レーザ焼入れなどがあります。化学的な方法は、表面の化学組成を変えて、硬化させる方法で浸炭、窒化、浸硫窒化、ボロナイジング、拡散浸透処理などがこれに該当します。いずれの場合も表面を硬くし、耐摩耗性、耐疲労性、耐食性、耐熱性などの向上が目的ですが、これらの処理のどれを選ぶかは、母材との兼ね合いもあって大切な問題の一つです。
物理的硬化法
高周波焼入れ(JIS記号HQI)
高周波誘導加熱によって鋼を焼入れする場合、コイルと被加熱物に流れる電流は、周波数が高くなるにしたがい、それぞれの表面に集中してくる性質があります。この現象を表皮効果と呼んでいます。コイルと被加熱物に流れる電流は、向きが互いに反対方向であり、周波数が高くなるとこの表皮効果によって、反対方向の電流がますます接近して流れるので電気抵抗が少なくなります。被加熱物の表面のみが発熱するのはそのためです。電流の流れる表面の深さ(d)と周波数(f)との間には、次のような関係式があります。
d=5.03×103√ρ/(μ・f)
ただし、d:透過深さ(cm)、ρ:固有抵抗(μΩ・cm)、f:周波数、(Hz/sec)、
μ:透磁率
つまり、簡単に云えば電流の周波数が高くなるほど、加熱深さが浅くなります。例えば周波数10KHzの時は焼入れ深さは5mmとなります。表15に高周波発生装置の種類と特徴を示しましたが、現在では周波数の範囲が広い、サイリスタインバータ式の発振機が多用されています。高周波焼入れの特徴は、
(1)直接加熱ですから熱効率が良く、作業時間が短い。
(2)局所焼入れが可能で、硬化層深さの選定も比較的容易である。
(3)短時間加熱、急冷処理のため酸化、脱炭、変形が少ない。
(4)作業の標準化、自動化が容易である。
(5)急熱、急冷のため表面に大きな圧縮残留応力が生じ、耐摩耗性のみならず耐疲 労性も向上する
などが挙げられます。
高周波焼入加熱は、コイルによって行われますので、被加工品の寸法、形状に適したコイルの作成が重要です。コイルの種類には外面用、内面用、平面用などがありますが、コイルの選定は経験的な要素が多々あります。
高周波焼入れは、一般的に機械構造用炭素鋼及び低合金鋼が多く用いられていますが、急速加熱のため、炭化物が十分固溶しない内に温度が上昇し、Ac3変態点は鉄-炭素系状態図の場合よりも若干高くなります。したがって、高周波焼入れ硬さは、焼入れ前の素地組織によって大きく影響されます。ソルバイト組織のものは炭化物が十分に固溶しますので、焼入れ硬さは高くなります。硬さの表示は有効硬化層深さと全硬化層深さの2つがあります。有効硬化層深さは50%マルテンサイト(これをハーフマルテンと呼んでいます)までの深さに該当し、鋼のC%によってその限界硬さが決められています。また、全硬化層深さは母材の硬さまでの深さを採用しています。
冷却剤は水溶性冷却液が一般的に多く用いられ、冷却方法は大きな冷却速度が得られる噴射式が多用され、クランクシャフト、歯車、カム、ロール、シリンダライナなどに施されています。
炎焼入れ(JIS記号HQF)
アセチレンガス、都市ガス、プロパンガスなどと酸素との火炎によって、鋼の表面のみを加熱し、焼入れする操作です。高周波の場合は誘導電流によって自己発熱する内熱式に対し、炎の場合は外熱式です。いずれにしても耐摩耗性や耐疲労性の向上を目的とした処理です。特徴としては、
(1)被処理品の形状や寸法に制限を受けない。
(2)局所焼入れが可能で、硬化層深さの選定も比較的容易である。
(3)急速加熱、冷却のため酸化、脱炭、変形が比較的少ない。
(4)肉薄部品の局所焼入れは不向きである。
などが挙げられます。
焼入れ用の炎は、中性炎を用い最高温度の部分を利用します。また、高周波焼入れのコイルと同様に、炎焼入れにおいては火口の設計が重要なポイントです。火口は燃料ガスの種類や被加熱物の形状、大きさ、焼入れ硬化深さなど目的によって設計が変わり、ガスと酸素の混合形式から、元混合形、先混合形に、また、炎の形成上から孔及びスリットがあります。なお、用いる鋼は高周波焼入れの場合と同じであり、有効硬化層深さも同じと考えて良く前表を採用しています。また、表面硬さは大体次式によって推定ができます。
HRC=15+C Cは(%×100を表します)
高周波の場合も同様ですが、焼入れした後は必ず焼戻しを行います。
レーザ焼入れ
レーザ焼入れは、高エネルギー密度のレーザビームを鋼部品の表面に照射して加熱し、自己冷却作用によって焼入硬化させる方法です。レーザ発振装置には炭酸ガスレーザ、YGレーザ、プラズマレーザ、エキシマレーザなど色々ありますが、焼入れに用いているのは、炭酸ガスレーザが多いようです。レーザビームによる加熱は超急速であり、また、焼入れも冷却剤は用いず自己冷却です。したがって、短時間に小さい面積で局所焼入れができ、ひずみの発生も少ない利点があります。一般的に焼入れ後は焼戻しを行いません。
電子ビーム焼入れ
電子ビーム焼入れは、真空中で電子ビームを被処理物の表面上を走らせながら加熱し、自己冷却によって焼入れる方法です。真空を用いる不便さはありますが、酸化や脱炭などが無く良好な結果が得られます。また、比較的熱効率も良く、今後機械部品の小局所表面焼入硬化に多用されることと思います。
化学的硬化法
浸炭(JIS記号HC)
低炭素鋼(通常肌焼鋼と云っています)の表面にCを浸透拡散させ、高炭素としたのち、これを焼入れして表面を硬くする方法を浸炭と呼んでいます。浸炭焼入れには固体浸炭、液体浸炭、ガス浸炭の3種類がありますが、色々な理由から現状ではガス浸炭焼入れが主流です。表17は各種の方法について特徴を示したものです。いずれの場合も、表面が硬く内部が軟らかいため、耐摩耗性、耐疲労性に優れています。使用鋼は一般的に低炭素鋼が用いられ、次のような条件を満たしていることが必要です。
(1)浸炭温度に加熱した際、結晶粒の粗大化を起こさないこと。
(2)硬化層の硬さが高く、耐摩耗、耐疲労、高じん性を有すること。
(3)内部の被硬化部においても、結晶粒が粗大化せず、高じん性を有すること。
(4)浸炭を阻害する元素が少なく、遊離の炭化物を作る元素が含まれていないこと。
(5)加工性が良く、価額も安いことなどが挙げられます。
固体浸炭(HCS)
固体浸炭は、浸炭箱に処理品と木炭を主成分とした浸炭剤を積め、ふたで密閉をして行う処理です。この方法は各種の浸炭法の中で最も歴史が古く、炉の設備や作業法も簡単ですが、常に品質を一定に保つことが難しく、また、作業環境も悪いことから現在ではあまり行われていません。浸炭機構は基本的には、ガス浸炭の場合と同じです。箱内に詰められた浸炭剤は箱内に存在する酸素と反応し、炭酸ガス(CO2)となり、さらにCO2は炭素と反応して、一酸化炭素(CO)となります。
C+O2→CO2
C+CO2⇔2CO
このCが鋼の表面で分解して(C)となります。この(C)は通常のCと異なり、活性化炭素と云っています。実際には
Fe+2CO→[Fe-C]+CO2
によって浸炭が行われます。
液体浸炭(HCL)
青酸カリ、青酸ソーダなど青化物を主成分とする塩浴を用い、約900℃に加熱した浴中に処理品を浸漬して浸炭します。浸炭層のコントロールは処理時間と温度によって行い、低温で短時間の場合は薄い浸炭層が、また、高温で長時間になると厚い浸炭層が得られます。しかしながら、シアン公害の問題から最近では斜陽傾向にあり、シアンを含まない液体浸炭も開発されています。
ガス浸炭(HCG)
天然ガス、都市ガス、プロパン、ブタンガスなど変成した浸炭性ガスあるいは液体を滴下し発生した浸炭性ガス中で処理品を加熱し、浸炭を行う方法です。ガス浸炭には一般的なガス浸炭の他真空炉を用いた真空浸炭、プラズマを利用したプラズマ浸炭(イオン浸炭とも云っています)、また、メタノールなどの液体を浸炭炉内に滴下し、その分解ガスによって浸炭を行う滴注式浸炭法などがあります。現在では特別な場合を除き、品質管理、生産性、公害などの観点から、このガス浸炭法が汎用されています。浸炭機構は固体浸炭の場合と同様です。ガス浸炭処理で最も留意すべき点は粒界酸化の問題です。できるだけ粒界酸化を防ぎ、また、残留オーステナイトの生成を抑えることが大切です。従来の浸炭は表面の炭素濃度を共析組成(0.78%)とし、焼入れによって得られたマルテンサイトにより耐摩耗性の改善を図っていましたが、この状態では、摩擦熱による温度上昇や高い温度雰囲気中で使用する場合などは、軟化現象が生じ寿命が低下することがあります。このような現象を防止する目的から、表面近傍の炭素濃度を3%前後まで上昇させ、球状化して分散させた炭化物分散浸炭なども行われています。
浸炭窒化
浸炭と同時に窒化処理も行う方法です。古くは青酸ナトリウム(NaCN)や青酸カリ(KCN)を主成分とする塩浴を用い、750~850℃で処理していたものが、これに相当し液体浸炭窒化と呼ばれていました。シアンを用いるこの方法も、前述のシアン公害の問題から斜陽傾向にあります。しかしながら、ガスによる浸炭窒化の場合は、比較的焼入性の低い材料に適用でき、若干残留オーステナイトが生成し易いが、通常浸炭よりも低温で処理が可能なため、利用頻度が多くなってきています。この処理法は通常のガス浸炭性ガス雰囲気中に0.5~1.0%のアンモニア(NH3)を添加し850℃前後の温度で行います。
窒化処理
窒化処理は鋼の表面に活性化窒素(N)を浸透させて、表面を硬くする方法です。鋼の表面にNが入ると表18のような窒化物を作ります。この窒化物は非常に硬いため、処理状態で用います。したがって、浸炭のような焼入れ操作は必要としません。処理温度はA1変態点以下のα-Fe区域(510~570℃)です。処理温度が低いため焼割れや焼ひずみの心配もありません。鋼中に入るNはアンモニアなどが熱分解してできた発生期のNが必要で、この窒素と親和力の強いAl、Cr、Moなどが鋼中に存在していることが重要です。特にCr、Moは不可欠成分です。JISで規定されているSACM645はAl、Cr、Moが含まれている窒化専用鋼です。もちろんSCMやSKDなども窒化処理を行って用いています。
表面に生成される窒素化合物は前述したFe2N、Fe2-3N、Fe4Nであり、白層と呼ばれている最表面の相はFe2-3Nです。いずれにしても、調質をしてから窒化処理をするのが基本です。なお、窒化防止にはSnめっき又はNiめっきなど行います、これをマスキングと云っています。
窒化硬化層深さには全硬化層深さと実用硬化層深さの二つがあります。全硬化層深さは測定が困難なため、母材の硬さよりも50HV高い、実用硬化層深さのほうが良く採用されています。
ガス窒化(HNTG)
1923年、A.Fryによってアンモニアの分解ガスを用いたのが最初です。500~550℃に加熱したアンモニア分解ガス中で、50~150時間処理します。この時のアンモニアの分解率は30%前後にします。この処理によって深さ0.2~0.3mm、1000~1200HVの硬さが得られます。耐摩耗性、耐食性に優れた特性が得られますが、処理時間の長いのが欠点です。
プラズマ窒化(イオン窒化)
窒化時間の長いのを補う目的で開発されたのがプラズマ窒化です。イオン窒化とも呼んでいます。この処理は低減圧の真空中により、放電によって行うガス窒化の一種です。図36に示すごとく、処理物を陰極、容器を陽極とし0.5~10Torrの真空中で約500Vの電圧をかけ放電を行います。この時アンモニアを導入すると窒化が行われるのです。窒化時間は数時間で良く、ガスも節約でき公害もありません。また、処理温度は450~570℃です。処理雰囲気には窒素と水素の混合ガスが多く用いられています。
塩浴軟窒化(HNTT)
塩浴軟窒化の代表的な処理はタフトライドです。この処理は青酸カリや炭酸カリなどをチタンるつぼに入れて溶融し、この中に空気を吹き込みながら処理を行う方法です。処理温度は570℃前後、時間は30~240分程度、加熱後は油冷か水冷を行います。用いられる鋼はオールマイティと云っても過言ではない位全ての材料に適しています。ただ、シアンの問題があり、最近ではシアン公害をゼロにした処理も開発されています。ガス窒化やプラズマ窒化と大きく異なる点は、後述するガス軟窒化と同様に、窒素と炭素が同時に侵入し、炭窒化物が形成されることです。写真14は塩浴軟窒化処理鋼の一例です。
浸硫窒化
窒素と硫黄を同時に侵入拡散させる処理です。塩浴軟窒化性浴の中に硫黄化合物を添加し、窒素化合物と硫黄化合物を同時に鋼表面に生成させる方法です。この処理には高濃度のものと低濃度の処理があり、また、比較的低温で行う電解浸硫窒化処理も行われています。いずれの場合も耐摩耗性と耐焼付き性が改善されます。
ガス軟窒化
軟窒化をガスによって行う方法で、公害は全くありません。この処理にはアンモニアガスと浸炭性ガスを混合して使う場合と、尿素を分解して用いる方法とがあります。
アンモニアガスと浸炭性ガスを1:1の割合で混合して用いる軟窒化は、ガス軟窒化の主流です。この他窒素ガスベースのものもあります。また、尿素の熱分解で生じたCOとNで軟窒化を行う方法もあります。処理温度や時間は他の軟窒化法と同じです。写真15は金属組織であり、表面の白層がε窒化物(Fe2-3N)です。
ボロナイジング(ほう化処理)
鋼の表面にFeB(約2000HV)、Fe2B(約1600HV)のボロン化合物を生成させ、これらの持つ高い硬さ値と非金属的物性によって耐摩耗性、耐焼付き性の改善を図る処理をボロナイジング又はほう化処理と呼んでいます。処理方法には固体、液体、気体の3通りがあります。いずれも日本では余り行われていませんが、ヨーロッパでは耐摩耗部品や金型類に汎用されています。最表面には処理方法と条件によって異なりますが、反応生成物としてFeB、Fe2Bが生成されます。耐摩耗性の観点からはFe2B単相の方が好ましいです。処理温度は1000℃ 前後の高温で行われるため、ひずみの発生があります。これらを考慮して処理することが大切です。
炭化物被覆処理
炭化物被覆処理法にはPVD(物理的蒸着法)やCVD(化学的蒸着法)のようなドライコーティング、TRD(VC炭化物コーティング)のようなウエットコーティングの2通りがあります。いずれの場合も鋼表面に硬い炭化物あるいは窒化物を生成させる方法です。PVDやCVDには色々な方法があり、硬質皮膜もTiN、TiC、TiCN、TiAlNなど、また、硬質皮膜のみならず光学的、物理的皮膜が種々検討され、すでに実用化されている皮膜も少なくありません。また、TRDは表面に硬いVC炭化物を生成させるもので、すでに実用化され金型など広範囲で使用されています。この処理は、素地と炭化物層の相互拡散によって密着強さが高く、はく離を起こし難い特徴がありますが、高温処理のため大きなひずみが発生しやすく、この問題解決にはある程度の経験が必要です。なお、最近ではα区域の低温で炭窒化物被覆する方法も開発されています。
水蒸気処理(ホモ処理)
鉄には一酸化鉄(FeO)、三酸化鉄(Fe2O3)、四酸化鉄(Fe3O4)の3種類の酸化鉄があります。FeOは白さび、Fe2O3は赤さび、Fe3O4は黒さびと云われています。Fe3O4は多孔質で硬く、耐食性に富んでいるので表面改質に利用されます。この膜を作るのには水蒸気を用います。赤さびが生じないように、加圧水蒸気を350~400℃に予熱した後、500℃前後に加熱した過熱水蒸気を処理品に通じるとFe3O4膜ができます。温度が高すぎたり、時間が長すぎたりするとFe3O4はFe2O3に変化してしまいますので注意をして下さい。ます。
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